勝負はこれから

 

「一緒に泣いてくれて、ありがとう」

 

 長い話し合いを経て、部屋から出てきた彼女は

ぽつりぽつりと話してくれた。

 

仕事上、今の彼女の立場は、厳しい。

 

そこに健康上の問題が、先週見つかった。

 

「なんで、こんなに重なるんだろう」

 

彼女の振り絞るような声が突き刺さる。

 

それでも、話し合いの場では

ちゃんと話せたことを教えてくれた。

 

そして、遠くを見つめながら

うっすらと笑みを浮かべて

「私、かわいそう」

と言った。

 

次の瞬間、彼女の体が傾いた。

 

「こわいよ」

 

私は思わず、彼女を抱きしめた。

 

彼女の不安が、痛みが、締め付けられるほどに伝わってくる。

 

声を押し殺して、彼女の肩が震えた。

 

二人とも言葉はなかった。

 

 

明日から、彼女は、長い検査期間に入る。

 

帰りに、オフィスに立ち寄ってくれた。

 

今度は、私の背中を包む彼女の両手に、ぎゅっと力が入った。

 

そして、笑顔で

 

「一緒に泣いてくれて、ありがとう」と。

 

 

まだ、道はあるはず。

 

私たちにできることはあるはず。

 

だから、あきらめないで。

 

私たちもあきらめない。

 

だって、勝負はこれからだから。