30数年ぶりにつながった想い

 

私には、ひそかに弟子入りしたいと思っている女性がいる。

 

なぜ彼女なのか?

 

なぜなら彼女は、全肯定の人だからだ。

 

私がどれだけネガティブに捉えようと

彼女にかかれば、180度反転する。

 

 

人は誰しも、心の奥底に

いくつもの棘を抱えている。

 

私にもあるそんな棘のうちのひとつを彼女に話した。

 

 

小学校6年生の時、ホームルームの時間に

何か問題だと思うこと、

改善した方がいいと思うこと、

そんなことを話し合おうと

担任の先生が提案した。

 

当時、担任の先生は

新卒の熱血先生だった。

 

今でも、休憩時間に

私たちと追いかけっこや

ドッチボールをして

走り回っていた先生の笑顔が思い出せる。

 

そのホームルームで

 

なぜか私は、

 

「Uくんのことをくさいと言っている人がいます」

 

と言った。

 

ことあるごとに

一部のクラスの子たちが

ひそひそとそう言うのが

あまり好きではなかった。

 

その時の詳しいことは覚えていないが、

 

「仲間に対して誰がそんなひどいことをするんだ。

 

言ったことのある人は、正直に立ちなさい」

 

担任の先生は怒り、そんなことを言ったと思う。

 

言ったことのある子たちは、

次々に席を立ち、その男の子に謝った。

 

私は、想像以上に大ごとになったことに驚いた。

 

言ったことのある子たちを、みんなの前で

立たせたりすることになろうとは思ってもいなかった。

 

それから2.3日、私はそのことについて考えていた。

 

すると、ふと、

私は、全く言わなかったか?と思った時、

 

あ、私、言ったことある。。

 

その場面を思い出したのだ。

 

私、何やってるんだろう。

 

ほんとに私、言った?

 

思い違いであることを確かめようとして

そのシーンを何度も再現した。

 

でも、私は確かに言っていた。

 

その場面を鮮明に思い出したのだ。

 

私は、何てことしたんだろう。

 

友達たちを立たせておいて、悪者にして

実は、自分もやっていたなんて。

 

次のホームルームの時間、

 

私は、

 

「私も言ったことがあります」

 

と席を立った。

 

その時、先生がなんて言ったのか覚えていない。

 

でも、

 

先生は泣いていた。

 

演台に両手をつき、肩をふるわせて泣いていた。

 

私は、とんでもないことをしたと思った。

 

自分で自分のことがわからなくなった。

 

そして、ただただ

 

私は、とんでもないことをしてしまった

 

という想いに支配された。

 

それから、その先生とのことは覚えていない。

 

私は、その男の子に謝り、

それ以降は、誰も

その男の子のことを

ひそひそと言う子はなかった。

 

 

 

そんな普段は表に出てこない

でも、心の奥底にずっと引っかかっていた棘を

彼女に話した。

 

彼女は、小学校で臨床心理士をしている。

 

「自分のことだからわからないかもしれないけど、

もしクラスにそういう男の子がいたらどう思う?

 

先生に、こんないじめがありますって言って、

自分も言ったことがあるって気づいたら

ごめんなさいって正直に言えるなんて

素直でいい子だなって思わない?

 

その子のおかげでいじめもなくなったんだから

パーフェクトよ」

 

 にわかには、受け入れられなかったが

 そんな風に彼女に何度も言ってもらって、

心の棘がふっとやわらいだ気がした。

 

心の棘がやわらいだおかげで

母に話してみようという気になったのだと思う。

 

熊野古道からの帰りの車の中で、

その話を母にした。

 

すると、母が言った。

 

「あぁ、それでわかったわ」

 

 

私の通っていた小学校は、中学受験に反対だった。

 

中学受験を考えている家庭のお母さんは

学校に呼び出され、

教頭先生、生徒指導の先生、書記の先生に囲まれて

受験をやめるよう説得された。

 

そうして、否応なしに受験をやめるか、

大喧嘩をして強行突破するかのどちらかだった。

 

ただ、母は、喧嘩もせず

教頭先生から

「100点をあげられます」

と言われて帰ってきた。

 

私は母のおかげで、

学校からの反対を受けることもなく

受験をすることができた。

 

 

「あなたが受験する前、

H先生、お家に来てくれたの覚えてる?」

 

ううん

 

「覚えてないの?

あなたも、一緒に座って先生の言うこと聞いてたんよ」

 

覚えていない。

 

「先生、お家に来てくれて、

 

『自分で決めたことなら、しっかり頑張りなさい』

 

って、言ってくれたんよ。 

 

お母さん、先生が来てくれたことだけでうれしかった。

 

学校があれだけ反対している中、

 

すごく勇気のいることだったと思う」 

 

それからほどなくして、

母も学校に呼び出された。

 

そのとき、教頭先生から

 

「H先生が家庭訪問したと思いますが、

なんて言ってましたか?」

 

と聞かれたのだと言う。

 

その時、母は、

 

担任の先生は、正直に教頭先生に言ったのだろう

 

と思ったのだそうだ。

 

でも母は、

 

「H先生は、学校の方針の通り仰いました」

 

と答えたと言う。

 

そして、

 

教頭先生は、帰り際に母に

 

「100点をあげられます」

 

と言い、私は受験することを許された。

 

「あれほど学校が反対している中、

どうしてH先生がお家に来て

『頑張りなさい』とあなたに言ってくれたのか、

正直に教頭先生に言ったのか

ようやくわかった気がするわ。

 

きっと、

あなたのその一件から

先生、感じたことがあったんやと思うよ」

 

先生がそこまでして、

私に「頑張りなさい」と言いに来てくれていたなんて。

 

そして、学校全体が反対している中、

そのことを正直に学校に話していたこと。

 

身体の奥底から

やさしい あったかいものがじわ~っと

広がってくる気がした。

 

ずっと引っかかっていた棘が

ふわっと溶けた気がした。

 

そして、

私の受験は、こんなにいろんな人の想いに

支えられていたことを初めて知った。

 

つい最近まで、

こうして家族や親せきが期待してくれていたのに

合格できなかったことをずっと申し訳ないと思っていた。

 

でも。

 

あの時、合格していたら

きっと今、私が出逢えている人たちには

出逢っていなかっただろうと思う。

 

 

 

先生

 

あの時、お家に来てくれて

 

「頑張りなさい」って言ってくれたこと

 

本当にありがとう。

 

あの時、目指していた中学校には合格できなかったけど、

 

私は今、しあわせです。

 

そして、先生のおかげで

 

今、とてもとてもしあわせになれました。

 

本当にありがとうございます。

 

そして

 

本当にごめんなさい。

 

今度帰ったら

 

先生に会いに行きます。