正解のない世界で生きるとき、よりどころとなるものは?

 

私の最近のワクワクする時間のひとつ。

 

それは、筆文字。

 

埼玉に住む友達に、

オンラインで習っているのだけど、

これがものすごく楽しい。

 

小学生の時は、ご多分にもれず、

近所でお習字を習っていた。

 

でも、そのときのお習字は、

楽しくなかった。

 

目の前で何度も書いて見せてくれる先生の字と

まったく同じものを書かないといけないと思っていた。

でも、そんなのムリ。。

 

字は、すぐひょろって曲がっちゃうし、

なんなら、最初の筆を入れるところで

すでに先生の点と違う。

 

あ~だめだ~。

 

そんなできた感の全然しないお習字は

楽しくなかった。

 

先生とまったく同じ字を書かないといけないと

思い込んでいたそもそものところが違ってたんだね。

 

で、再びお習字に向かうようになったのは、

大学生になってから。

 

高島屋のとある高級和菓子店で

アルバイトをしていたとき。

 

お店が立て込んでくると、私も

のし紙を書いてねと言われた。

 

でも。

 

きっとお客さんは、こんな高級和菓子をプレゼントしたときの

相手の人がよろこぶ顔を想像して、

ワクワクしながら買っているにちがいない。

 

なのに、私のこんなのし紙の字が最初に目に入ったら

よろこびもお菓子の価値も半減してしまう。

 

それでお習字を再び始めることにしたのだった。

 

音楽クラスだった私は、習ったことがなかったが、

さいわい、高校の時の書道の先生が、二駅先に住んでいたので、

書道クラスだった友達につないでもらい、習いに行くことにした。

 

のし紙に書く小筆だけ習いたかったのだけど、

ずいぶんと長い間、筆を触っていなかったので、

小手先だけで書いてしまわないように

大筆で筆の運びを学ぶところからやりましょう

と先生は言った。

 

相変わらず、できた感のしないお習字の練習だったけど、今回は、

のし紙にきれいに書けたらいい

そんな思いがあったので、

なんとなく整った字が書けていたらうれしかった。

 

しばらくして、先生は

遊び心で、自由な書を書かせてくれるようになった。

 

さらりと流れるような字体で、文章を斜めに書いたり、

ごつごつした字体で、存在感ありありの言葉を書いたり。

 

それがすごく新鮮で楽しかった。

 

相変わらず、先生とまったく同じ字を書かないといけない

と思い込んでいた私は、なんとか先生の字に似せようと

よくよく観察した。

 

ところがある日、先生が

私の書いた字を見て、

 

「バランスが大事なんですよ」

 

と言って、朱色の筆で

私が書いた字に合うように

さらさらと書き直してくれた。

 

なんていう言葉を書いていたのか忘れてしまったが、

10文字程度の文章で、まっすぐ横書きではなく

波のようにゆらりとした流れで書いていた。

 

私の字は、先生のお手本とは違い、

あちこち大きくなったり小さくなったりして

先生とは違う場所で、凸凹になっていた。

 

でも、先生は、私の凸凹に合わせて

書き直してくれたのだ。

 

そして、先生の書き直してくれた字を見ると。

 

ステキだった。

 

私の字が出っ張っているところの下に書く文字は小さく、

逆に小さくなっているところには、大きめの字を書いてくれていた。

 

私がすでに書いた文字の凸凹を

先生が書いた文字が補ってくれて、

それで、文章全体のバランスがとれて

美しい作品になっていた。

 

「文字はバランス」

 

そう思うようになって、

 

字が上手だねって言われることは、まれだったけど

読みやすい字だね、って言われることが多くなった。

 

自由な書は、ある意味、

正解がない。

 

お手本とまったく同じに書く必要もなく、

小学生の時のように、最初の点で、

あ~だめだ~、って思うこともなく、

 

自分が書いたありのままの字のバランスを見ながら

それに添うような字を続けて書いていけばいいだけ。

 

バランスがとれていれば、

それだけで美しい。

 

バランスがとれていれば

自由でいい。

 

そう思うと、

きっと、私たちが今の正解のない世界に生きるときも

同じなのかもしれない。

 

正解のない世界に生きるときの

よりどころとなるもの。

 

それは、たぶん

 

「自分のバランス感覚」

 

 

自分のバランス感覚を信じて

今あるものをありのままに受け入れ、

それに添うように、補い合うように

 

自分を表現していけば、

自由でありながら、

美しいなにかが

できていく気がする。

 

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